青空が眩しい。この大空からみれば真っ青の空を見せているのはごく僅かではあるが、最近曇り空がちな日々が続いただけにその青さがとても新鮮であった。その空を背景にこの知床峠を越えるべく必死で自転車を漕いでいた。ただ、目指す峠先は背後の空とは一変、真っ黒な雲で覆われ、山々を飲み込んでいた。昨日登頂した羅臼岳はもちろん、それに連なる連峰のどれもこれも山々は迫り来る雲に飲み込まれていた。だが、その反対側は山も空も同様に青空さえ覘き、その空を背にしているだけに、暗雲に向かう自分の足取りは重く、なぜあんな雲に向っているのか自分自身に疑問をなげかけたくなるほどであった。そして、なにより気を重くさせたのが前方より来る車どれもが雨に車体を濡らせていることであり、さらには風に煽られ、霧雨が登るにつれて自分にも降りそそいでくることだった。それも霧雨は真横に降りそそぎ、それが自分へと向ってくるからさらにペダルは重くなり、気まで同様に重くなる。標高約740m、だが実際は1000m以上の峠として自分に目の前に立ちはだかっていた。
しかしそんな今朝は一変。風もなく穏やかな朝を迎えた。昨日の天気予報では今日は雨・・・ だが実際に迎えてくれたのが所々晴れ間も覘く気持ちいい朝だった。ただ昨夜は時折、雨を降らせるパッとしない天気で雨を予感させたのだが、実際は心地よい空覘き気持ちよい旅立ちを誘う陽気であった。ちなみにそんな今朝もやっぱりHPの更新作業から始まり、そして充電中は昨夜共に飲んだマーボーさん、ハルさんと団欒。そしてキャンプ場に集まる鹿たちと遊んだりと長閑な朝でもあった。そんな今朝の出発はやはりPCで手こずり10時半の出発。2人に見送られ後にし私にしては長くいた思いで深いウトロの町を見下ろしながら知床峠へと目指していった。
坂の苦痛はもう何度も味わい、そしてその標高740mという高さに挑むと言うことも地図より分かっている為にそれほどこの峠自体に対しては抵抗はない。いつもの峠どおり黙々とただ上って行くだけなのだが、冒頭にも書いた通り、この風、とそして降りつける霧雨に頭を悩ました。そしてもうひとつ、坂を登っているはずなのに寒いことだ!手は凍えるほど冷え、足はあまりの冷たさで痛いほどであり、いくら必死に漕ごうが、手足凍えは収まらず、しかし背中だけは暑い。荷物を背負っているせいもあり、また風が来ないというのもあるだろう。そんな苦痛の為に、実際の標高740m以上に辛く、時折吹く突風は目の前の坂をさらに壁のように見せていた。
それでも必死で駆け上がり2時間ほどの奮闘でなんとか峠へと登りきった。すでに先ほどの青空はどこにもなく一面の霧で視界はなくなっていた。とても峠でのんびり休憩といった気にはなれず、また休んだときに襲うだろう寒さが怖く、記念写真1枚を撮り、あとは一気に下りへと突き進んで行った。が、やはり上を羽織ったものの、その寒さは半端ではなく全身に襲い掛かってきた。手足はかじかみ凍ったように冷たく冷え切っていた。ただ救いは天気は悪いものの霧雨が止んでくれたことであったが、しかしそれでもこの寒さには溜まらず終始震えながら坂を下っていった。
この気温は何℃位だろうか?下りきったところにあった電光掲示板には気温14℃と表示されていた。峠上では10℃切っていたかもしれない、いや体感は風の為に間違いなく10℃を割っていただろう。そんな寒さの中を勢いよく下っていくと、町の手前にひとつ有名な観光地がある。いや、一般的にはそれほど有名ではないかもしれないが、ライダー、チャリダーにとっては天国のようなところなのだ。そこは熊の湯という無料露天風呂。私も迷わず身体を温めるために入浴した。熱湯のように熱い湯で有名な湯船なのだが、すかっり冷え切った私の身体には感覚は麻痺し、それが熱いのか冷たいのかさえよく分からないほどで、ただただ早く温まれ!そんな思いで湯船に長く浸かっていた。ちなみにこの熊の湯、男女別に湯船が設けられ、しっかりとした敷居で覆われているのはもちろん、脱衣所もあり無料(寸志)とはいえ地元の方々で管理、維持され守られている綺麗な温泉であった。
ようやく身体は温め、そして次に立寄ったところはそこからさほど遠くない”知床ビジターセンター”、受付では丁寧過ぎるほどの言葉と共に頭を下げた、いかにもアルバイト風の学生が迎えてくれた。そのあまりの丁寧さにこちらが思わずかしこまってしまうほどであったが、しかし、悪い気はもちろんせず、気分よく知床の自然について勉強。内容は以前に斜里町で入った博物館を縮小したような感じであり一度見ているだけに真新しい感は受けないが、それでもシマフクロウ(世界最大)の大きな剥製に驚いた。
センターを後にし、そしてようやく坂を下りきり羅臼市街へ入った。この海を眺めながらひたすら南下していったのだが、その海の先には手が届くのではないかというほど目の前に北方領土・国後島が浮んでいた。そのあまりの近さに驚き、そしてそこが今、異国の地であることにも驚く。小舟でも渡れるほどの距離なのだが、しかしそのには日本文化はなく異国があるのだろう。そう思うと、この僅かな海の隔たりが、物凄い距離に感じ、そして目には見えない境界線がそこにあることを思わさせられた。
今日の目的地は標津町。そこまでは大した坂もなくほとんど平坦で苦もなく辿り着けるだろう、そう安易に考えていたのだが、実際は峠こそないものの道は常にアップダウンを続け、そしてさらには和らいだとはいえ、変わらぬ向かい風で苦しめられた。標津はまだか・・・ キャンプ場はまだか・・・ もう最後はヘタリ気味でもあり、そんな自分が不思議でもあった。大した坂でも風でもないのにこの疲れ様、知床峠の疲労が残っているのだろうか・・・ そしてさらに悩ませたのがまた降り出した霧雨で、それは徐々に勢いを増し、そして同時に襲うのが身も凍る寒さである。疲労、風、雨、そして寒さ、どれもこれも苦痛でしかなくその苦痛に耐えながらようやく17時過ぎキャンプ場へと辿り着くことができた。
★今日のお食事♪
・朝食 : ごはん・コンソメスープ(もやし・シュウマイ入り)
・昼食 : パン×3
・夕食 :
ごはん・コンソメスープ(豚肉・キャベツ・ほうれん草入り)