昨夜は熟睡することができたものの今朝の体調はあまりよくない。いかにも昨日の疲労がのこっているという感じであったが、それでもこんな快晴な天気を逃して登山しない訳にはいかない。そう思うほど、空は青々としていた。朝の眩しいほどの日差しに照らされながら、昨夜はあんなに陰気くさかった部屋が嘘のような快適空間となっていた。5時に起床してから手早く出発準備をすまし、ちょうど6時、越後駒ヶ岳登頂へ向け出発した。
今日は久しぶりの長時間登山になりそうだ。いつもは半日でほぼ登山を終えてしまっているが、ここはそう言う訳にはいかない。なにしろ今ここの標高はわずか300mほどでしかなく、目指す山は2000m、標高差1700mを日帰りで登るのだから、丸1日掛かりの過酷な登山になりそうだ。昨日の疲労が直に影響しなければよいのだが・・・ そんな不安を抱えながらも、まずは林道を上がっていった。約30分ほどの林道だが、そんな中でもさっそく難関が待ち構えていた。至って普通の林道なのだが、その前方には10mを越える雪渓の壁が立ちはだかっていた。「なんじゃこりゃ~!」と思わず声をあげてしまうほどの巨大さで、林道を越え、沢まで覆いつくして、まるで洞窟の入り口のような沢のトンネルを作っていた。さすがにそれを見たときには、「越える!」と言うよりも「ここで早くも断念か?!」、そう迷いもなく思うほど、行く手を阻む壁であった。どうしようか・・・ そう頭を抱えていると、なんと地下道が作られているではないか?これにはさすがに驚き、またよほど遅くまでこの雪渓が残り登山者を悩ましているのだなとも思いながら、マグライトを片手に越える。真っ暗なだけに、ここはなんだか、洞窟探検気分でちょっとワクワクしながら越え、この後、さらにもうひとつ同じような地下道を越えて、いよいよ尾根直登の登山道口へと到着した。 約30分の林道歩きであったが、今日のこの標高差のわりにはほとんど平坦できてしまった。これでいいのだろうか?!そう思わせられるほどで、この先の登りのきつさが頭をよぎる。また、山頂が常に見えているだけに、その途方もない遠さが、自身さえも失なわさせられるほどであった。こんな私が弱気になるのも珍しいが、疲労を体が感じとっているからこそ、そう思ってしまうのだろう。
予想通りに登り始めた早々、激登が襲う。すぐに息が上がり、そして足は最初から思うように上がらない。疲労のせいだろうか・・・ それともこの激登がそうさせるのだろうか、分からないが、とにかく表現できないほど最初から苦しめられた。それがひたすら果ても無いかの様に続くから気力までなくなってくる。右手には常に雄大な八海山が望め、その好展望が疲労をわずかに洗ってくれる唯一の存在であったが、逆に左手にそびえる目指す山頂は、変わらぬ高さをいつまでも誇っているのが望め、展望的には最高なのだが、その距離と標高に、見ているだけに力を奪われた。
道は険しい。急でいて尾根は狭く、一歩踏み外せは崖下へ転落というところも多々ある。緊張の糸をとぎらせない様に慎重に歩いているつもりだが、足の方が付いて行かずに時折、よろめく始末であった。登れば登るほど、当たり前だが体力を奪われ、辛くなっていく。中盤を過ぎると傾斜はやや緩やかになり始めるのだが、一歩一歩はきつくなるばかりであった。数歩進んでは立ち止まり、中腰で休む有様で、自分としては登山でここまで疲労するのは珍しい。記録に強く残っているのはこの旅ではじめての登山で同様の苦戦をしたが、でも、そのときは重装備であった。今回は日帰りと言う軽装、やはり体調だろうか・・・ それとも、この山の恐ろしさだろうか・・・ ただ、救われたのはこの登山道では残雪に苦しめられることがなかったことだろう。山頂付近の斜面には物凄い残雪が残っていたものの、すぐ脇を歩く登山道は不思議なほど全く無い。稜線(尾根沿い)というと強さだろうか。
なんとかヘタリながらも最初のピークである”グシガハナ”へと9時30分に登頂した。あれだけ足を止め休み休み来たのに、コースタイムと比べれば、いつも通りのかなり早いペース。やはり、激登のせいか?!そんなことを考えながらも、真っ青な空に広がる雪山を眺めながら、腰を下ろし大休止とした。駒ヶ岳山頂まではあともう少しなのだが、今はその力が出なかった。もう一歩も歩きたくない!いや、もう歩けない!そう自分に言いたかったが、目指す山頂を眺めていると、「どうせ休むなら、こっちでゆっくり休め!あと少しだぞ!」、そう言っているようで、それに誘われ、休憩もほどほどにして、登頂に向け、足をまた踏み出した。
近づく台風の影響だろか、時折突風が吹くものの身をかがめるほどではない。逆にその風が心地よくさえも感じた。風に煽られるように、一歩一歩と重い足を精一杯踏み出していく。山頂はもうすぐ目の前に広がっているのだが、それがとても遠い世界のように感じるほど、足は鈍っていたが、それでも、一歩進むごとに僅かではあるが、近づいているのを希望として、歩んでいった。そして10時20分、待望の山頂だ!さすがに今回ばかりは喜びは大きく、誰もいない静かな山頂で疲れを忘れるように思わずはしゃいだ。 だが、そんな気力は長くは続かずに昼食後は倒れるように横になり、そのまま仮眠タイムとなった。身体を休めなければ、とてもこの先、下山できないという不安があり、迷わず、そんな体制をとらせたのだろう。砂紛れになろうが、なんの躊躇もなく、ポカポカ温かい日差しの差す下で1時間ほどの仮眠をとった
相変わらず天気はよく、雪をかぶった見事な山々の展望が広がっていた。その中でも目の前にそびえる八海山の姿は強烈であり、さらにはその八海山のすぐ上に浮ぶようにして見える妙高の山々がまた印象的であった。12時、だいぶ身体は楽になった。下っていけるという自身をつけて一歩一歩下山へと向った。下ってみると思ったよりも道は激登というほではない。意外にトントン拍子で進み、やはり最後はくたばりながらも、14時10分、林道(十二平)へと無事に出ることが出来た。あとは30分ほど、この林道を歩くだけなのだが、ここで緊張の糸が途切れたせいか、もうヘトヘト、たかが一歩、歩くだけでも苦痛でしかない。さらにはこの暑さ!!山頂でのあの快適さが嘘のように蒸し暑かった。道中の残雪を手に疲れた身体を冷やしながら、なんとか歩きとおして、無事、自転車をとめた水無川キャンプ場へと到着した。
さすがにしばらく休憩・・・ 約1時間ほど疲れた身体を休めて、そしてようやく自転車を漕ぎ出した。使う筋肉は違えど、やはり疲労から思うように漕ぎ進めない。だが、幸い道は緩やかな下り坂で、さらに嬉しいことに追い風が後押ししてくれていた。そんなおかげで、無事に今日の野宿地の道の駅へと17時頃、入ることができた。
もう疲れからか何もやる気が起こらず、ベンチでボーっと過ごす。時には横になったり、また読書をしたりと、身体を休め、そして日も暮れ出した19時ごろ、ようやく日記の更新へ。そしてテントを軒下に設営して22時半頃就寝した・・・
★今日のお食事♪
・朝食 : 爆弾おにぎりの雑炊
・昼食 : パン
・夕食 : アイス・ほか弁(まぐろかつ丼)