100km超、そんな走行が今まで何回あっただろうか、10回、いや5回位しかないのでは、そう思うほど少ない。もう1年以上も自転車を乗り続けているのに・・・ 歴史散策・登山メインに旅をしている為に仕方ない数字かもしれないが、それでも一度くらいは一日中走ってみたい。ずっとそんな事を思いながらも挑戦することが出来ずにいた。でも、それが今日実現できそうなのだ。この留萌から先、稚内までの距離、大きな町もなく興味沸く観光地も少なく、さらには峠道もない。「よし!これなら!」と、昨日よりそんな挑戦の野望を抱き、そして今朝いよいよその戦いがスタートした。
無風、そしてこの曇り空、走るには申し分ない天候の朝だ。起床は4時半とようやく空が白み始めたという早い時間から、この小さなキャンプ場でひとり自炊。やっぱり米を食わなきゃ!と朝からたらふく食べて走行に備えた。そして6時前にはその挑戦は始まった。今まで過去最高走行距離は”139km”ではないかと思う。鹿児島県で出した数字であるが、でも、この時も観光しながらの走行で、実際は一日必死になって走ったわけではない。そんな日本一周しているわりには貧弱な数字。でも、べつこの数字に対して不満と言うわけではない。走るために旅をしているわけではなく、日本を見るために、自分を知る為に走っているのだからこそ、それほど拘らないが、それでも走ってみたい、一度は位は挑戦してみたい。そんな欲求が今回のエネルギーとなっていた。ただ、この挑戦、前々から計画していたわけではないだけに、やや余分の荷物が多いのが難点だった。米がなんと4kg近くも、またガスも3本と長距離走行には向かない無駄な重量を背負っての挑戦がやや難点であり、不安の種でもあったが、それに反し私に味方してくれるものもあった。それは風だ。朝は無風であったが、留萌の市街を抜け海岸線沿いの直線道路へと入ると、神風の如く追い風が・・・ それに煽られ朝から距離が気持ちよく伸びて行った。
今回この北上する国道232号、別名オロロンラインとも呼ばれるこの道路、先ほど観光するところ、やはり距離が長いだけに何箇所か気になる観光地もある。それはまず最初に訪れた”旧花田家番家”と呼ばれる鰊御殿。ただ、この時、まだもちろん早朝とあって開館していない。ちょっと悔しくもあったが、しかし、いままでこの北海道では何箇所も鰊御殿を見てきただけにまだ妥協することができた。ただそのからさらに北へと50kmほど伸ばしたところにある初山別天文台、こちらはそう簡単には妥協することができなく、迷わず国道を外れ、その灯台のある岬へと入った。実はこの灯台、自分の中で2つの思い出があった。それは私が免許を取って2年目の頃だったころだろうか、初めての長期車旅へと出発した。こんな旅自体が初めてでもあり、県外から出たというだけでもドキドキの旅であった。そして胸躍らせ、また不安の中、フェリーに揺られ、そしてこの北海道の大地を無我夢中でただひたすら走った。そんな旅の中での数少ない観光地であったこの初山別天文台。なぜかその時のこの記憶が不思議と新鮮であり、今もこの北海道の思い出として一番濃いものとして残っていた。なにが、そんなに濃いものにしたのかは今の私には分からない。それがどうしてか、そんな思い出をここで改めて見てみたかったのがひとつ、そしてもうひとつが、これもまた不思議なのだが、未だに忘れられないドラマ番組がひとつあり、その舞台のひとつがこの天文台なのである。そのドラマとは「白線流し」、やや古いドラマかもしれないがなぜか記憶に新しく残っていた。あの青春ドラマに惹かれ、また元々星は好きなこともあり、誘われるように今回もこの天文台へと入っていった。
9時半着。だが、なんと開館は10時・・・ この30分がかなり私を悩ました。もちろん”今日は距離を延ばすはずなのに・・・”そんな思いが絶え間なく押し寄せ自分を焦らせる。でも、先ほども書いたようにこの地は不思議なほど自分の思い出の地となっているため、どうしても諦めきれず、結局は10時まで待ち入館した。意外に殺風景な館内。小さな天体写真パネルが数枚、それとドラマのロケ写真が何枚か飾られているのみの資料、そして後は星に関するビデオが放映されているだけであった。もちろん階上には大きな天体望遠鏡があるのだが昼間のために見ることは出来ない。ただ、夜にも一般公開しており、わずか100円で、実際の星空を観察することができる。だが、今はビデオを見るくらいしか出来ず、見学自体はあっという間に済んでしまい、なぜ、これほど自分の中で記憶に残っていたのだろうか、その結論は出ずじまいであったが、ただ、なんとなくまた惹かれ、次に北海道を訪れた時にもまた来よう。そう改めて思いながらこの天文台を見送った。
約1時間もロスしてしまった。さあ、その分を取り返すためにも!と、改めて漕ぎ始めたのだが、道はいつの間にか海岸線をやや外れ、丘のアップダウンがひたすら続く難路へと変わっていた。越えても越えても、見えるのは坂、坂である。どこも大した坂ではないのだが、それが果てしなく続くだけに悩まされたのだが、そんな時に、「中村さんですよね?!」と、必死で向かい風に逆らいながら対向してくるチャリダーが私を見て声をかけてきた。後藤さんである。会うのは今回初めてだが、メールで以前何度かやりとりし、また鹿児島ではそのお兄さんにお世話になった忘れられない思い出のひとつだ。そんな後藤さんとやはり旅話で盛り上がり、そしてこのアップダウンをお互い嘆きあった。お互い「この先も続きますか?」と問い、そして「まだまだ!」と答え、そして悲痛な顔をお互い浮かべあう。でも、それが楽しくもあった。お互いこうして苦痛を共有できることが何よりも楽しい。それがこの自転車の楽しみにひとつなのかもしれない、そう思う嬉しい出会いであった。
さて、この先、しばらく走ると思ったよりは早くアップダウンを抜け、すると目の前には草原が果てしなく広がり、いかにも北海道らしい風景が心和ませてくれた。牧場であろうこの壮大な敷地を走り、そして天塩市街を抜けるといよいよサロベツ原野へと入る。ここも楽しみにしていたところのひとつで、ものの見事に何もないところなのだ。何キロ、何十キロ進もうとも変わらぬ直線の道、そして辺りは原野だけが広がる。こんな大自然の中を走っている自分が嬉しくもあり、また不安さえ思うほどの原野であった。そしてさらにこの原野を楽しむ為に寄り道。この無限の原野を縦断するだけに及ばす横断したのだ、さらにはまた横断し元も道へと帰る、ちょっと辛い工程。また、この時にはあの神風であった追い風もなくなり、吹き付けるのはキツイ海からの横風である。時には向かい風の突風で迎えてくれたときもあり、悩ましたが、しかし、逆にこれが今回の”挑む”、”挑戦”、そんな思いに拍車をかけることになり、気合は増していった。
途中立寄った2ヶ所のビジターセンター。そこから眺める果てしない原野はこれまた格別であり、今、自分がこの”日本”という大地にほんとに居るのかと疑問に思うほど、そこには別世界の原野が広がっていた。そんな何もない原野がひたすら続くだけに、やや苦痛にすら思うときもやはりあった。いくら漕いでも変わらぬ景色、さらには先ほどからの向かい風で脚力はグッと疲労度は増し足を重くさせていた。日暮れまでに無事、稚内へと辿り着けるのだろうか、まさかこの原野で夜に・・・ そんな不安さえ興るほど果てしなく続くのだが、しかし、ちゃんとその果はある。まさに果てという距離まで走った時のその果ては見え、そこは小さく素朴な集落、抜海の町であった。
ノシャップ岬を経由して稚内入りだ!それを目標にただひたすら残りの距離を漕ぎ進む。すでにメーターは200kmの大台を超え、それと同時に疲れも色濃く現れだすが、しかし全ては気力がカバーしてくれ、前へと漕ぎ進ませてくれた。長い長い道程の越え、ひたすら越え、そしてやっとの思いで辿り着いたこのノシャップ岬、そして懐かしさも込み上げるノシャップ岬、以前、車で来たときと同じ景色が今もそこにはあった。そして変わらぬ胸の高まりもここにある。ただ、やや観光客で騒がしいのが玉に瑕であったが、しかしそれも愛嬌、今となればそれもいい思い出である。そして最後にこの走行に花を飾ったのが誘われるようにして入った岬の定食屋”からふと食堂”。ライダーの間でこの店の噂を何度か聞いていただけに、また、店前の看板娘の薦めにも負け、なんと高級海鮮丼を頂いた。ほんとは名物ウニ丼を頂きたかったが、あまりに高い!売れ切れであったから買えなかったにもある。そんなことから選んだこの海鮮丼であったが、これも絶品!ただ料金の割には・・・ ともちょっと思いながら、また食事後は「とんでもない贅沢をしてしまった・・・」と後悔しながら店を後にするといった、なんとも喜べない自分へのご褒美であった。
残り稚内までは僅かな距離。余興を楽しむかのようにダラダラと最後は町並みを眺めながら市街へと入り、そして無料の森林キャンプ場へと目指したのだが、なんとそこは山の上・・・ 始めは、もうそこしか泊るところがないからと、気合を入れて登りだしたものの、あまりの坂に途中で断念。この後、風呂にも入りたくまた市街へと降りてくるのが面倒だったということもあったが、だが、断念したとはいえ、寝床のあてが他にあるわけでもない。またRHが幾つかあり、そこへという手もあったが、だが、先ほどのあまりの贅沢に100円でももう今日は贅沢したくない。そんな思いが強く、ただひたすら野宿場所を探し回った。そんな時に見つけたのが”北防波堤ドーム”というフェリーターミナル脇の巨大な波除建造物で、名の通り半ドーム上となっており、その下は広い歩道となっていた。まさにテントには絶好の場所!そして心強いのが、なんといってもすでに張られているこのテントの数々、明日、利尻、礼文へと旅立つ人達なのだろうか、全長約500mのドームにはすでに見渡す限りのテントが張られていた。総数30は間違いなくあるだろう。恐ろしい野宿の数である。その数に驚きながら、また心強さを感じながら寝床を確保し、そして安心して、このあと市街の中の銭湯へと入浴、そして夜は日記の更新と行きたかったのだが、意外に足の疲労が濃く、あぐらをかこうとすると足が攣りだす始末。「意外に今日は足の疲れはないな。」と先ほど思ったばかりだけに意外であり、また日記を書くのはちょっと辛いと諦め、このあと軽く読書を楽しみ、22時頃就寝した。さあ、明日はいよいよ利尻だ!北海道初の離島だけに期待膨らませての夢の中であった。
★今日のお食事♪
・朝食 : ごはん&レトルトカレー
・昼食 : コンビニ弁当・パン
・夕食 :
うに丼