強い日差しがテントに眩しいくらいに降りそそぎ目覚めた。外を覗くと期待通りの真っ青な空が広がり、そして昨日は望むことができなった目指す幌尻岳がくっきりとその雄大な姿を見せていた。まだ4時半というのに、もうその景色に心弾み、鼻歌さえこぼれるほどで、気持ちよく出発準備にとりかかった。
これからの幌尻岳までのルートは長い稜線のピストンとなる。そのため、またここに帰ってくることになるので、荷物はここに置き、そしてサブバックに最低限の荷物を持っての出発だった。そのお蔭で昨日までのあの苦痛が嘘のように、今日は飛び跳ねるように歩み、そしてすぐ目の前の北戸蔦別岳へとまずは上がった。そして思わず、声を張り上げた。もちろん驚きの声だ。この稜線の向こう、いわゆる帯広方面には見事なまでの雲海が広がっていたのだ。そのあまりの見事さに自分は天人にでもなったかと思うほどで、これが現実のものとはとても思えなかった。しばしその雲海に見惚れ、そして、雲上散歩の如く、常に雲海を見下ろしながら稜線を幌尻岳へ向け歩いていった。
最高の景色を見せてくれるものの今日も昨日に引き続きハイマツに苦しめられた。脛に枝がビチビチとあたる。ただどれも細い枝で太さは1cmにも満たないのだが、それが無数に登山道に這いいで、時には背丈以上にもなるところもあった。そんなところの通過はもう大変。体中、擦り傷だらけであり、また松ヤニが嫌と言うほど纏わりつく。それに加えて、脛に当たる枝はもう痛くて痛くて・・・ アザが出来ているのではないかと思うほどなのだが、その枝のあまりの量にとても避けて通ることは出来ず、両手で掻き分けながらも、足元は強引に痛さを堪えて突き進むしかなかった。
天気の方は相変わらずいい。右手、日高方向は見事なまでに延々と山々が連なり、そして左手はもちろん果てしなく続く雲海だ。そして辺りはハイマツ、そして時にはお花畑と最高の雲上散歩である。ただ唯一このハイマツのジャングルを覗いてはだが・・・ 戸蔦別岳を越えた辺りから、登山者が賑わい始めた。会う人だれもが、幌尻山荘からの登山者で、中高年の団体が多い。このルート意外に山小屋どころか、キャンプ場すらまともに無く、自然と一般ルートとなるのだが、だが決して楽ではない。山荘側ルートには腰まで浸かると言う沢越えがあるのだ。そのため装備不十分な私は控えた。どちらから来てもこうして難ルートになってしまうコースにも関わらず、あまりのこの登山者の多さに驚いた。ただ、引っ切り無しに来ると言うほどではない。1日歩いて10組にも満たない。総勢20名足らずなのだが、それでも、自分が思ってた以上に多い登山者に普通ならウンザリするのかもしれないが、でも私の場合はというとウキウキしてくる。なにせ、今までと東北の登山、残雪期と時期が外れていたこともあり、ほとんど登山者に会わなかった。ほとんどどころか一人とも会わない登山も多々で、こうした普通に出会う登山が懐かしくさえ感じ、また安心感、そしてこの最高の景色を共に感動しあうことができる。そして、やはり登山ではこうして交わすちょっとしたあいさつ、会話がまた楽しい。
いよいよ山頂が目前へと迫ってきていた。見下ろす山裾には、見事なお花畑も広がるところがあり、また草原となるところもあり、見通しはいい。熊はいないかな?そう今日も探しながらの雲上散歩。何度か立ち止まっては眼下を探すが、しかし、そう簡単に見つかるものではなかった。ほんとうに熊は居るのだろうか、そう思ってしまうほどで、そして、ようやく見つけたのが、遠く、米粒ほどに見える距離を優雅に歩く鹿の群れであった。この見渡す限りの大自然の中をのんびりと歩く鹿の群れに、しばし魅せられ、そして心和ませてくれた。
さあ、久しぶりの100名山山頂だ!何度これを味わってもこの嬉しさは変わらず、そしてこの天気である。最高と言う意外にはもちろんなく、のんびりとポカポカ陽気を浴びながら山頂と言うこの地で今までの苦労を洗い流した。心地よいそよ風吹く中約30分ほど景色を堪能し、そして9時、帰路に向ったものの、やはり足取りはのんびりで、変わらず景色を堪能しながらの下山であった。
帰路も同ルートをとる為に、稜線沿いのピークをまた踏むことになるのだが、それはそれでまた楽しい。こうして反対側から登るとまた違った山にも思えてくる。そして同じように苦労もするから、やっぱり同じように登頂の喜びもある。こうしたピークを何度か越えて行き、そして昨夜のキャンプ地に11時に到着。ここで、あのくそ重たい荷物をまた背負うことになるのだが、でも2日目ともなると思ったほどまでには苦はない。それとも、食糧・飲料類が減り軽くなったお蔭だろうか、昨日のあのズッシリと肩にくる重さはない。あとはトントン拍子で下山していくだけだ。ただ、言葉では簡単だが実際は下山も登り同様につらい。このザックの重みを足、とくに膝に負担を掛けない様にと、足にクッションを効かせる様に下っていくのだが、これが意外と筋肉を使うのだ。また疲労ももちろん襲い、さすがに足がガクガクしだし踏ん張りが効かなくなってくる。こうなると、さすがに辛く、大休止。下山時も”トッタの泉”にお世話になることになり、そこで貴重な飲料を新たに手に入れ、また昼食とした。
さあ、ここまで来ればあと一息。そう思って、気力を振り絞るのだが、そう簡単にはつかない。もういい加減に着くだろうと何度も思いもしたが、そのために失望させられ、ドッとさらに疲労が襲った。もうさすがに気力のみとなりながらも歩き続け、そして念願の登山口だ!もうこの時が山頂以上に嬉しかった。変わらない姿で迎えてくれた自転車と再会し、帰ってきたんだ!そう改めて実感し、ここで初めて張り詰めた気持ちが和らいだ。この登山時、常に張り詰めている緊張感も大きな疲労となる。それもこうして登山を終りをみ、ようやく身も心も和んだ。ただ、今回は和みすぎても大変だ。これから20km近いダートが待っているのだ。ただ、基本的に下りで、下山の喜びから鼻歌どころか、声を張り上げて歌を一人歌いながら気持ちよくダートを越えて行くことができた。また使う筋肉が違うと言うこともあり、ちょっとした登りでも登山時のようなつらさはない。気持ちよく下って行き、またその中で北キツネなどの小動物にも何度か出会い、さらに心躍らせてくれた。
★今日のお食事♪
・朝食 : ごはん&レトルト丼
・昼食 : チョコ・カロリーメイト・ラーメン
・夕食 :
ごはん&マーボー豆腐